2014年5月2日金曜日

どらごんたらし 3章

穏やかな休日の昼下がり。
俺は、街中をのんびりと散歩していた。

「今日はいい天気ですねえ。こんな日はボールでも投げてもらって、公園とかで思い切り追っかけまわしたいです」

ジハードと共にもう一匹、犬みたいな事を言っているドラゴンハーフを引き連れて。
「いつも思うんだが、お前は本当にドラゴンなんだよな?ハーフだけど」
「いつも言ってますが、れっきとしたドラゴンですよ、ハーフですけど」
休日なだけはあり、街中にもそれなりの人通りがあるが、それらが皆、ジハードを見て驚き、足を止めて眺めていく。
今時ドラゴン使いは珍しいし無理もない。
しかも、ドラゴンハーフの美少女のおまけつきだ。これで見られないはずがない。
そういう所は、ドラゴン使いとしてちょっと優越感を感じられる気がして悪くないので、正直散歩させるのは嫌いじゃない。
とはいえ、あまり人通りの激しい所を散歩するのも迷惑がかかるので、ちょっと人通りの少なめの、有体に言えば、治安のよろしくない通りを散歩コースに選んでいた。
さすがにドラゴンを引き連れた人間に絡んでくる根性のある連中はいない。
それがたとえドラゴンと契約を結べていないなんちゃってドラゴン使いだとしても。
しかし、今日は本当にいい天気だ。
ラミネスみたいに公園で駆け回りたいとは思わないが、昼寝でもしたい気にはさせられる。
毎日が、こんな平穏な日々なら、

「ちょっと、いい加減にしなさいよ!あまりしつこいと、ラミアに締め上げさせるわよ!」

………よかったのに、なぁ………。
俺はため息をつきながら、聞き慣れた声のした方に視線を向けた。
………いるよ、俺の天敵みたいな金髪が。
しかも、なんかガラの悪そうなのに絡まれてるよ………。
あのお嬢様は、なんでこんな治安の悪い通りをフラフラしてやがるんだ………。
そして、同時にむこうもこちらに気が付いた様だ。
当たり前だ。巨大なジハードを引き連れている以上、見つからない訳がない。
俺は、即座に考えを巡らせる。
このまま介入してめんどくさい事に巻き込まれるか、このままダッシュで逃げて、後日アリサから逆恨み的なとばっちりを受けるか。
俺は考えた結果………。

何も見なかった事にした。

「おい、ラミネス。こんなに天気いいんだし、ボール買っていこうぜボール。さっき言ってただろ、公園いって遊ぼうぜ」
俺がラミネスに笑いかけると、俺と一緒にアリサの方を見ていたラミネスが、えっ、と言った表情を浮かべてくる。
「あれあれ?先輩、あの女の人助けないんですか?なんか揉めてるみたいですけど。しかも、私あの女の人学園で見た事あるような………」
「ああ、あれは俺と同じクラスの、アリサ=リックスターだ。聞いた事あるだろ、うちの学年で一番強い奴だ」
「は、はぁ………。名前は聞いた事ありますけども。でも、同じクラスなら、なおさら助けなくていいんですか?」
「ああ、心配ない。ほら、ラミネスはツンデレって言葉聞いた事ないか?あの、有名なやつだ。あの嫌がってるのは、ツンの段階なだけなんだよ。そのうちにデレて、あのお兄さん達とどこかにしけ込むから、ここはそっとしといてやるのが人の道だ」
「なるほど、あの有名な!私初めて見ました。明日友達に自慢しよっと」

「ちょっと待ちなさいよー!」

どうやらやり取りが聞こえていたらしいアリサが、遠くから叫んでいる。
その為、俺達に背を向けた格好だったアリサに絡んでいた二人組が、俺達の存在に気づきこちらを向いた。
「なんだ?嬢ちゃんのお仲間でも………うおおおおおっ!」
「ひいいいいいっ!なななな、なんでこんな街中にドラゴンがっ!?まさか、この時代にドラゴン使いっ!?」
絡んでいた二人組は、俺が連れているジハードの姿におもいきりビビり後ずさる。
「あんた、聞こえてたわよ!なんで私がツンデレなのよ!なんでこの私がこんな連中にデレなきゃなんないのよっ!」
食って掛かるアリサを指さし。
「な?ツンデレっぽいだろ?」
「ほんとだ、あれがツンデレってやつなんですね!なんかあんな感じのセリフ、聞いた事あります」
「ちょっとおおおおお!」
「じゃあ、ここは若い人達に任せて、俺達はお暇しよーぜ」
そう言って、ラミネスとジハードを連れて立ち去ろうとする。
「あっ、おいこいつのドラゴン!契約できてないんじゃねえのか!?ほら、ドラゴンの額を見ろよ、普通契約済みのドラゴンなら、ドラゴンの額とか目立つ所に、何か呪文みたいのが浮かんでるはずだ。このドラゴンにはそれがねえ!」
「おお、マジだ!なんだよこいつ、なんちゃってドラゴン使いかよビビらせやがって!」
いきなり俺が契約できていない事を見抜かれてしまった!
そんな事よりも………っ!
「おい、聞いたかラミネス、契約すると額になんか浮かぶんだってよ!」
「私、初めて知りました!ええー、どんなんだろう。おでこに変な文字書かれたらやだなあ………」
「ねえ、あんた達ドラゴン使いとドラゴンハーフでしょ?なんでそこのチンピラでも知ってる事を知らないの?」
呆れた顔でこちらを見ているアリサの前で、男二人が懐からダガーを取り出した。
え、ちょ、なにこれやばい。
「おい、おちゃらけてんのもそこまでだ。お前、どっかの金持ちのガキか何かか?この金髪の嬢ちゃんといい、こんな危ない所にノコノコ来るなって親に教わらなかったか?」
片方の男が、下卑た笑みを浮かべてダガーを構える。
「ほんとはこっちの金髪のお嬢ちゃんに、ちょっといい所に着いてきてもらおうと思ってたんだけどな。そのドラゴンはお前みたいな金持ちのボンボンには勿体ないペットだ。そいつはちゃんと高値で転売してやるから、兄ちゃん、お前はそこの銀髪の嬢ちゃんとその手に持ってる鎖を置いて、回れ右して帰るといいぜ」
その言葉に、ラミネスが拳を固め、その鳶色の目がスッと細くなる。
アリサがため息をつきながら、めんどくさそうに片手を軽く上に上げた。
ラミネスは今にも飛びかかりそうな態勢を取り、アリサも魔獣を呼ぼうとしている様だ。
どうやら俺をドラゴン使い見習いではなく、ドラゴンをペットにしている金持ちの息子と受け取ったらしい。
まぁ1年最強のラミネスと、2年最強のアリサに任せておけば、そうそう遅れは取らないだろう。
ちょっと情けないが、ここはラミネスの後ろに………
俺が、ラミネスの後ろにコソコソ隠れようとした、その時だった。
巨大な影が、男二人にヌッと近づく。
ジハードが、二人に首を伸ばしたのだ。
「おわっ、ちょっ、こ、こっちくんなっ!」
「うおっ!お、おい、いい子にしてたら、後でうまいもん食わしてやるからっ!」
ご主人様の俺の危機を感じ取ったのか、ジハードは………!
男の持つダガーに興味を示したらしく、その匂いをクンクンしだした。
………ですよねー。
「お、おい………。ちょ、ちょっと………」
呆然として皆が見守る中、ジハードはそのままダガーを………
ゴリッ、ゴギンッ。
………鈍い、金属の潰れる音ともに、そのままダガーをパクついた。
「………あああああああああああああっ俺のダガーがっ!」
「おわっ、おわあああああああ!」
「おおいっ!こらっ、ジハード!そんな物食べちゃダメだろ!お腹壊すぞ、ペッてしなさい、ペッ、て!」
ダガーを食われた男達とは別の意味で俺は慌て、ジハードに吐き出すように促した。
流石にダガーは口に合わなかったらしく、素直にその場に吐き出してくれる。
カランという乾いた音と共に、潰れた鉄の塊が吐き出された。
「ひっ、ちょっ」
驚き、とまどっている男の片方の懐に、ラミネスが小さく息を吐きながら、瞬きするほどのほんの一瞬の間に飛び込んだ。
「ヒュッ」
鋭く吐き出される吐息と共に、ラミネスが腰を落とし、無造作に片手を突き出す。
その突き出された掌が、男の胸にめり込んだ。
「なっ!て、てめっ………」
声も出せずに崩れ落ちる男を見て、もう片方が慌てて飛び退くと、その後ろにずっと立っていたアリサが上げていた片手を下ろす。
「ちょっと、さっきまで散々絡んどいて、今更無視しないでよ」
のんびりとそんな事を言う、アリサの足元の影が大きく波打つ。
そして、上半身が女性、下半身が蛇の胴体を持つ魔獣、アリサに飼われているラミアが、影の中からぬるりと姿を現した。
「嘘だろっ!ま、魔獣使………」
男が最後まで言い終わる前に、影から這い出したラミアが、アリサが指をさす男に向かって飛びかかった。
そして、そのままミシミシというあまり人体から聞こえてはいけない音と共に、男の身体が蛇の胴体によって締め上げられる。
そのまま男が泡を吹いて気を失うまで、数を数える時間もなかった。

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「おい、助けてくれてありがとうって、可愛く言ってみろ」

「………あんた、もしかしなくても私を助けたつもりでいるの?ジハードとその子には助けてもらったかもしれないけど、あんた何もしてないでしょ」
警察へ、あの連中を突き出した後。
「ドラゴン使いの俺が散歩に引き連れていたドラゴン二匹。それに助けられたなら、俺にも礼を言うのは当たり前だと思うんだ、人として」
「先輩、アリサさんはツンデレだからとか言って、ほっといて公園行こうとしてませんでしたっけ?」
俺の隣でいらん事言うラミネスに笑いかけながら、アリサが、俺には投げやりに言ってくる。
「はいはい、ありがとうありがとう。助けてくれてありがとう。………一年の、確かラミネスだっけ。あなたには、本当に感謝してるわ。ありがとうね」
「いえ、私がお手伝いしなくても、アリサ先輩一人で充分だったみたいですし」
なぜかラミネスと二人、なごみ空間が形成されている。
「おい、俺との態度の違いはずるいぞ。そんなにツンデレ認定されたいのか?」
「こ、この男は昔っから………。ほんと実力はないのに態度だけは大きいわね。その、どんな相手でもズバズバ物怖じしないで物が言えるとこだけは感心するわ。あと、なんであんたは私をそんなにツンデレにしたがるのよ」
「俺の理論と統計に裏打ちされたデータによると、気が強くて金髪でお嬢様で幼馴染なお前のツンデレ率は、98%だ」
「なんなのよ、そのわけわかんないデータは!」
そんなやり取りを見て、ラミネスがクスクスと笑っていた。
「二人とも、仲良いんですね。小さい頃からの知り合いなんですか?」
アリサがそれに苦笑しながらゆっくり頭を振り、
「只の腐れ縁なだけよ。私の家は代々魔獣使いの家柄、そしてこいつの家はドラゴン使いの家柄。昔はライバル関係な家柄だったみたいだけど、今じゃ………ねぇ………」
「おい、なんだその、ねぇ………ってのは。今だってライバルだろーが」
ふっ、とアリサが鼻で笑う。
「ライバルねえ………あなたの場合、まずジハードと契約できるようになりなさいな。そしたら少しは認めてあげる」
「うぐ………。うちの子は大人しくて優しい子だから、戦ったりとか争い事が嫌で契約したがらないんだよきっと。平和を愛する子なんだ」
「凶暴凶悪で知られるブラックドラゴンが、平和を愛する優しい子って何言ってんですか先輩。今のジハードさんは思い切り猫かぶっているだけですよ」
ラミネスが、何言ってんだとばかりに言ってくる。
そういや、こいつ前もブラックドラゴンは凶暴だとか言っていたな。
「そう?私にも、この子は大人しい子にしか見えないけど。私に触られてもこんなにいい子にしてるじゃない?」
アリサが言うとおり、ジハードはアリサに頬をなでられ、気持ちよさそうに目を細めていた。
「それは多分、先輩のご先祖様のおかげですよ。本能を封印する魔法をかけてあるんです。気性が荒い系統のドラゴンには、大概その手の処理が施されるんですよ。契約できれば、先輩が『本能解放』って唱えてやれば、先輩のご先祖様が掛けた魔法だろうし、解放できると思いますよ?平時はその凶暴な気性を押さえておいて、戦闘時にだけ解放してやるんですよ」
「ほほー」
ラミネスの説明を聞きながら、アリサに頬を撫でられ、嬉しそうに眼を細めるジハードに目をやる。
どう見ても、愛くるしいうちのジハードが凶暴だなんて、ピンとこないんだがなあ。
「ま、がんばりなさいな。今度の1、2年合同のトーナメント戦。うまく契約できれば、あなたも出場できるんじゃない?そうすれば、会場の設営なんてやらないで済むかもね?………まぁ、私としてはあなたよりも、そっちのラミネスと戦えるかの方が気になるけどもね?」
「え、私っ?うう………アリサさんは2年生で一番強いとかって聞いてるんですけど。でもトーナメントで会ったら、その時はドラゴンの端くれとして負けませんよ?」
「ふふっ、さっきの戦いぶりであなたがそこらの2年よりも十分強いのは分かってるわ。期待してるわよ?」
あれ、なぜか俺が蚊帳の外に。
ええ、どーせそう簡単に契約できない事くらい分かってますぜ。
しかも、契約できたとしてもしょせん付け焼刃だろうし、アリサにここまで舐められるのもしょうがない。
「ついでにあなたも、ちょっとだけ、ね?」
そう言ってアリサは俺にいたずらっぽく笑いかけてくる。
まるで負ける事なんて微塵も心配してないなこの女。
まあ、たとえ契約ができたとしても、俺もまるで勝てる気はしないんだけども。
「なんだかんだで、先輩の事も期待してるんですね!先輩、頑張ってアリサ先輩の期待に応えましょうよ!私と契約して出場するってのが一番手っ取り早いとは思いますが!私はいつでも構いませんからね?」
「はいはい、どうしても出場したかったら考えとくよ」
さりげなく自己主張してくるラミネスを適当にあしらっていると、ラミネスがにこにこと続けてきた。
「でも、なんだかんだでやっぱり幼馴染ですね!結構仲良さそうじゃないですか」
それに、俺も昔を思い出すように答える。
「まぁ、昔は俺と一緒に風呂に入ったり、同じ布団で寝たり、私ギースのお嫁さんになるんだからー!とか言ってくれるぐらいには仲が良かったんだよ」
「あんたちょっと待ちなさいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
涙目で俺の首を絞めてくるアリサを指さし、
「い、今じゃこんなもん」
「こんなもん、じゃないでしょおお!あんた、何さらっとねつ造してんのよ!あんたとお風呂なんて入った事ないし、泊まった事もないでしょ!家同士もそんなに仲良くなかったんだし、あんまり接点なかったじゃない!」
「ぐぐぐ、見ろ、ラミネス。これがツンデレだ。今にこの女は、あ、あんたの事なんか別になんとも思ってないんだからねっ!とか言いながら俺にハートのくっついたラヴレターとか渡して………、おい、ちょ、脈、脈に決まってる………」
「これがツンデレ………先輩、色んな事知ってるなぁ」
「ちょっと、本気にしてるじゃない!ああもう!」
俺の目の前が暗くなりかけた所で、アリサはようやく俺を解放すると、
「まったく、そういやあんたと関わると大概ロクでもない事に巻き込まれてきたのを今思い出したわ!ったく、もう行くわ。さっきの通りの奥にある、魔道ショップに用事があるのよ。ラミネス?」
「えっ?は、はいっ」
地面に転がる俺を一瞥し、アリサが髪をかき上げ微笑んだ。
「今度のトーナメント、楽しみにしてるわよ?あと………その男とパートナー契約を結びたがっているみたいだけど、他のドラゴン使いを探すのをオススメするわよ?じゃあね」

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「危ないところだった………。あのチンピラ連中にダガー突きつけられたときよりも、身の危険を感じたぜ」
「むしろ、なんであそこまで命がけでアリサさんをからかうのかが分かりませんよ」
アリサが去った後、締め上げられた首を擦りながら、街中の散歩に戻っていた。
通りを歩いていると、ラミネスが串焼きの屋台を見つけて嬉々として駆け寄っていく。
「おじちゃーん、いつものちょうだいちょうだい!」
どうやらこの屋台の常連みたいだが、パタパタと尻尾を振りながら屋台に駆け寄る姿はどう見ても犬にしか見えない。
「いつも、ありがとねー」
屋台の親父に笑顔で見送られ、ラミネスが串焼きを数本手にして戻ってきた。
だが、その串焼きはどう見ても………
「な、生だろそれ」
そう、串焼きでなく、串にさした生肉だった。
だがラミネスは、串を片手ににこにこしている。
「これは、こうするんですよ」
言って、ラミネスは息を吸うと………
ごおおおおっ!
………自前で炎を吹いて焼き始めた。
「お前………それ、便利だな………」
「でしょー?あのおじさんにはいつも、屋台で売れ残った、悪くなったお肉を安くもらってるんですよ。私は炎ブレス系のドラゴンですし、お腹の中も常に高温滅菌です。どんな物食べてもお腹壊したことなんてありませんよ!」
串を焼きながら、胸を張って変な自慢をするラミネス。
「なんかお前のドラゴンっぽいところ初めて見た気がする」
「ひ、ひどいっ!私はいつもちゃんとドラってますよ!」
俺の隣を歩きながら串焼きを焼く今のラミネスの姿と、先ほどのチンピラを圧倒したときの勇姿とは似ても似つかない。
「しかし、お前さっきめちゃくちゃ強かったな。ドラゴンの強度と耐久力、それにその炎のブレス。はっきり言ってお前とアリサがやりあってどっちが勝つか、俺には予想できないよ。まぁ、お前かアリサが優勝するんだろうなあ」
「あ、あれっ?もしかして、私超評価されてますか?まあ、これでもドラゴン族の端くれ、あの位はできないと話になりませんよ。私と先輩が組んじゃえば、アリサさんといえども遅れを取る気はしませんよ?先輩と契約結んじゃえば、実質私は生徒として出場じゃなく、先輩の使役する使い魔扱いですし。ほらほら、先輩、優勝したくありませんか?年に一度の学園でのトーナメントです。優勝者は卒業後には色んなところから引っ張りだこらしいですよ?」
さりげなく契約の話を進めながら、右手に持った焼きあがった串にかじりつく。
そのままうまそうに、残さずきれいに平らげた。

串ごと。

「お前、口の周りすすだらけだぞ」
「っ!」
慌てて服の袖で口元を拭うラミネス。
そして、そのラミネスの左手から、何やらもしゃもしゃと食む音が………って、
「あー!ジハードさん何するんですか!」
左手に持っていたまだ焼いてなかった生肉の束を、ジハードがもしゃもしゃやっていた。
「わーん、たまに摂取できる唯一のたんぱく源なのに!」
ラミネスが、空になった両手でジハードに殴りかかるが、頑丈な鱗に覆われたジハードは、そ知らぬ顔でこちらも刺さっていた串ごと串焼きを飲み込んだ。
………お前ら、竹串はちゃんと出そうよ。
ドラゴンは悪食でなんでも食べるとは聞いてたが。
「こらジハード、人様の物勝手に食うなんていけない事だぞ。ラミネス、悪かったな。後でさっきより多めに串焼き買ってやるから」
「うう………今回は、先輩に免じてジハードさんを許してあげます。ジハードさんてば、先輩に迷惑ばかりかけて恥ずかしくないんですか?あなたが先輩と契約すれば、大会だって優勝も狙えるのに。なのに、ジハードさんといったら食べて寝てるだけじゃないですか」
ラミネスがそう言いながらジハードの腹をひじでグリグリするが、ジハードは知らん顔だ。
「優勝ねえ。お前とアリサがいるからなあ。アリサなんて去年の優勝者だぞ。就職活動で忙しい3年はいないといっても、お前ら相手は厳しそうだ」
「何言ってるんですか、契約を結んだドラゴン使いとドラゴンが、ドラゴンハーフや魔獣使いに負けるわけないじゃないですか。それだけドラゴン使いは別格ですよ?それにしても………やっぱりアリサさんて凄いですね。ちなみに、去年の優勝商品はなんだったんですか?確か毎年変わるんですよね?」
あーと、確か………。
「初級ダンジョンへの入場パスだったかな?大会で優勝できるぐらいなら初級ダンジョンへの進入を許可してもいいだろうみたいな感じで」
「………しょぼいですね」
「しょぼいよなあ………」
正直な話初級ダンジョンぐらいだと、ある程度実力が付いてきた生徒なら、夏休みに肝試しがてらに、クラスメイト達とパーティを組み、進入していたりもしている。
もちろん本来は危険なので禁止されている行為だが、そもそもが危険が隣り合わせの冒険者なんて仕事に就きたがる生徒達だ。
ちょっと禁止された程度で大人しくしている連中ではない。
「大会前に、生徒に欲しい物のアンケートを取るんだよ。で、生徒が欲しい物を書いた紙から、学園長がランダムに一枚引いて、それが景品になるってシステムを取ってるな。景品は、よほどな物じゃなければ大概受理されるらしいぞ」
ラミネスがふんふんとうなずく。
「そうかー………。ドラゴンフード一年分とかお願いしたら、私が優勝できなかったら他の人に迷惑かな?できるだけ誰が優勝しても嬉しい物をお願いした方がいいですね。………でも、去年の景品の、初級ダンジョン進入許可章なんて、誰が欲しがったんでしょうね?さすがに、許可なんて貰わなくても勝手に入るから別のにしてくださいなんて言えないでしょうし」
「うーん、まさか選ばれるなんて思ってなかったしな。アリサには悪いことしちまった。去年は、俺は参加すらしなかったから、適当に書いたんだよな。で、後でアリサにバレて散々嫌味言われたっけ」
「先輩の仕業ですかっ!」
ラミネスが、アリサさんかわいそうに………とか言っているが。
景品か………。
まあ、もしかして大会までに契約できたらもちろん出るつもりだし。
今年は真剣に書いてみようか。
まさか、2年連続で俺のが当たるなんて事もないだろうし。
そうだな。
どうせなら、思い切って………。

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